福祉型信託

福祉型信託

悩み

 福祉という言葉は、戦後生まれた言葉であり、英語のWelfareに対応するもので、Welfareは、「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味しています。老後の自分や家族の安心設計の一環として、また自分亡き後に残される病弱、認知症、障害等のハンディキャップを抱えている配偶者や子どもたちのことが心配で気掛かりな方に、そのような家族等の「しあわせ」「ゆたかさ」すなわち福祉を考え、その生活や療養介護のため契約や遺言等により設定する信託のことを福祉型信託といいます。

信託とは

 信託とは、不動産や金融資産などの財産を、特定の者の利益になるよう用いられることを意図して、特定の信頼できる人に対して託し、託された者において、定められたその目的に沿って、利益を受ける者のためにその財産の管理や必要な処分などをする制度です。平成19年に施行された新信託法は、「信託は、信託契約、遺言、自己信託の方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう」としています(信託法2条1項)。

福祉型信託の機能

 では、福祉のために信託を設定するということはどういうことでしょうか。それは、信託の有する機能を最大限活かすことで保護を要する者の幸福で安定した豊かな生活といった福祉を実現するということです。では福祉に役立つ信託の機能とは何でしょうか。ここで特に注目すべきものは次の機能だといえます。
  1. 長期間にわたって管理を行える機能(長期的管理機能)  長期にわたり、目的に従って財産の管理を行え、また信託の利益を分配を行える上、その利益を受ける者を連続的に設定し承継させることもできます。
  2. 倒産という事態に影響を受けない機能(倒産隔離機能)  ある財産について信託を設定するということは、その支配権が託した者に移転することであり、したがって委託した者がその後倒産して倒産手続きに入ってもその債権者は信託財産に対する強制執行ができないこととなります。また、財産を託された者(受託者)が倒産して倒産手続きに入っても、信託財産は受託者の財産とは区別され強制執行ができないことになります。
 信託の機能はこれ以外にも挙げられていますが、特に以上の2つの機能があることで安心して第三者に財産管理等を託すことができるのです。また信託にはそれによって利益を受ける者(受益者)を保護するための数々の仕組みが設けられており、これを活用すれば更に受益者を手厚く保護することができることから、福祉という目的に即した適切な財産管理等を可能にできると考えられます。以上のことからも、福祉型信託は民法上に見られるような単なる財産管理ではなく、財産の給付等により保護を必要とする受益者の生活支援、保護の機能も加わった制度である上、財産の承継もなしえる、まさに福祉を考慮した財産の管理や運用等を願う者のニーズに応える制度といえます。

信託の関係者

この信託を設定する者を「委託者」、託されて財産を管理等する者を「受託者」、信託による利益を受ける者を「受益者」といい、この三者が信託の当事者です。

信託図

  1. 委託者 委託者は、信託を設定する者で、信託の内容・目的を定めるまさに信託の主人公です。
  2. 受益者 受益者は、信託された財産からの経済的利益を受ける者で、自然人や法人に限られますが、福祉型信託では福祉を必要とする家族等を想定してください。現実には高齢・病弱や認知症等を抱えている配偶者、また知的障害・高次脳機能障害等により適切な財産管理等ができない子などのハンディキャップを持つ者を受益者とすることが考えられます。
  3. 受託者 受託者は、信託を受けて信託財産を管理又は処分及び信託の目的を達成するために必要な行為をする義務がある者でかつその権限を有する者といえます。受託者は、信託制度を支える信託の中心人物であり、それだけに信託目的に従った財産管理処分の厳格な責任を負うとともに、さまざまな義務を課されています。例えば、善良な管理者としての注意義務(信託法29条2項)、受益者のために忠実に信託事務を行う義務(信託法30条)、公平義務(信託法33条)、信託財産と固有財産等の分別管理義務(信託法34条)などが課され、適切な信託事務処理がなされるよう、また濫用がなされないよう図られています。 また、この三者以外にも受益者を保護するために、「信託管理人」、「信託監督人」、「受益者代理人」等を設けることも信託法は認めています。
  4. 信託管理人  受益者が今はまだ存在していない場合に、将来生じる受益者のために自己の名をもって受益者の権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する者です(信託法123条~130条)。
  5. 信託監督人  受益者が現に存在している場合に、受託者を監視監督する立場の第三者で、受益者のために自己の名をもって受益者の権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する者です(信託法131条~137条)。
  6. 受益者代理人 その代理する受益者のために、受益者のために受益者の権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する者です(信託法138条~144条)。

遺言信託と遺言代用信託

  • 遺言信託  遺言信託とは、遺言によって設定する信託のことで、遺言の効力が発生する時点(遺言者が死亡した時点)で効力が生じます。 委託者は遺言で受託者を指定できますが、遺言の効力発生後、利害関係人は、受託者に指定された者に対して、相当な期間を定めて信託の引き受けをするかどうかを催告することができます(信託法5条1項)。もしその期間内に指定された者が確答しなかった場合は、信託の引受けをしなかったものとみなされます(信託法5条2項、3項)。委託者が、遺言で受託者を指定しなかった場合、または遺言で受託者に指定された者が信託を引受けなかったときは、裁判所は、利害関係人の請求により受託者を選任することができます(信託法6条)。
  • 遺言代用信託 自分が死んだ時の財産の処分を遺言によって行う代わりに、生前信託を設定して実現しようとするものです(信託法90条)。 遺言代用信託には次の2つの類型があります。
  1. 委託者が死亡するまでは受益者は現存せず、委託者死亡時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する類型 (信託法90条1項1号)
  2. 委託者が死亡する以前にも受益者は現存するものの委託者が死亡した時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける類型(信託法90条1項2号)

信託のことをもっと知りたい(Q&Aのコーナー)

福祉型信託において、受益者となる者はどのような人ですか。複数でも構いませんか?

 たとえば、委託者である自分が判断能力喪失後や死んだ後に財産管理能力に乏しい高齢や認知症の配偶者、未成年者や障害をもつ子、やたら金遣いが荒い浪費癖のある子や所在が不明な子などの相続人などが想定されます。すなわちハンディキャップや問題を持つが故に将来のしあわせが脅かされるのでないか不安視される対象者を受益者とするのが福祉型信託です。また、受益者は複数でも構いませんし、受益権が連続する場合、すなわち第1次の受益者が死亡した場合に第2次受益者に受益者の権利が移転するなど連続移転させることもできます。さらに、信託法では、委託者本人が受益者になることも認めており、高齢の委託者が任意後見契約等の財産管理契約と連動させて任意後見支援信託を設定することも考えられます。

後継ぎ遺贈型信託というのはどのようなものですか?

たとえば、自分が死んだ後の財産承継について、まずは妻Aに財産を継がせ、妻A亡き後は孫Bに継がせたいなどと考えている方もおられると思いますが、これを後継ぎ遺贈と呼びます。これが遺言で書けるのかについては考えが分かれており、書けたとしてもその遺言どおりに承継がなされる保証があるのか疑問でした。しかし、信託法は、この遺言者の思いを信託により実質的に実現できることも規定しているのです(信託法91条)。  先の例ですと、委託者が当初受益者を妻Aと定め、妻A死亡後の第2次受益者を孫Bと定めることにより、妻が死亡しても受益権を妻の相続財産とすることなく孫Bに取得させ、実質的に跡継ぎ遺贈の効果を実現できることになるのです。  このように受益者が死亡すると、他の者が新たに受益権を取得する形態の信託を後継ぎ遺贈型又は受益者連続型信託といいます。  なお後継ぎ遺贈型信託については有効期間が定められており、信託設定から30年経過後に現存している受益者が、この受益者連続の定めにより受益権を取得した場合において、当該受益者が死亡するまで、又は当該受益権が消滅するまでとされています。

福祉型信託で財産を託す受託者はどういった人が適任でしょうか?受益者の任意後見人を受託者とすることはできますか?  

信託の受託者は、何と言っても委託者が信頼できると見込んだ者である必要があります。福祉型信託では委託者と受益者の家族関係や信託する財産の内容、最終的な財産の帰属者、信託監督人や受益者代理人の設定の有無や報酬の有無等も考慮して総合的に判断する必要があると言えます。家族や親族でもなれますが、受託者の不適格者として信託法は、未成年者、成年被後見人又は被保佐人を挙げています(信託法7条)。また信託監督人や受益者代理人等を置く予定の場合はこれらの者と受託者は兼ねることができません(信託法124条2項、137条、144条)。お尋ねの受益者の任意後見人ですが、任意後見人は受益者の身上監護や財産管理の代理人であり、受益者代理人と同様、受託者と利益相反関係に立つことが想定されるので原則として受託者になれないと考えてください。詳しくは公証人にご相談ください。

弁護士を受託者に選任することはできますか?  

弁護士の職務内容からいって受託者に適任と考えられがちですが、信託業を営む者等に関して規定する法律である信託業法は、信託の引き受けを行う営業(信託業)を営む者は株式会社に限るとしている(信託業法2条1項2項、3条、5条)ことから、弁護士や弁護士法人は、単発的に受任する場合や無報酬で引受ける場合以外は受託者になれないと考えられます。ただ、信託事務処理代行者として弁護士に依頼することができる場合もあります(信託法28条)ので、信託設定時にそのことを規定しておくのを検討されたらよいかと思われます。

受託者は信託事務について第三者に委任することができますか?

受託者は、信託事務の処理を常に自分で処理しなければならないわけでなく、一定の場合に委託事務の処理を第三者に委託することができます。一定の場合とは、①信託行為に第三者に委託する旨又は委託することができる旨の規定があるとき(信託法28条1号)、②信託事務の処理を第三者に委託することが信託の目的に照らし相当であると認められるとき(同条2号)、③信託行為には第三者に委託してはならない旨の規定があるものの、第三者に委託することが信託の目的に照らして止むを得ない事由があるとき(同条3号)です。

信託財産は委託者や受託者の固有財産と見分けがつくのですか?  

信託の設定に伴い、信託財産は委託者から受託者に移転し、受託者が管理処分することとなりますが、受託者は信託目的に拘束されます。そして、受託者は、信託財産とその他の財産とを分別して管理すべき義務が生じ、これを分別管理義務と呼んでいます。分別管理の方法は、その信託財産が不動産のように登記又は登録することができる財産なら信託の登記又は登録を行う方法によります(信託法34条1項1号)。この登記登録は信託の第三者に対する対抗要件ともされています(信託法14条)。また、信託財産が登記又は登録することができない財産の場合で、金銭を除く動産であれば、他の固有財産と外形上区別することができる状態で保管する方法によります(信託法34条1項2号)。金銭等についてはその計算を明らかにする方法により保管します(信託法34条1項3号)。  預貯金を信託財産とするなら、受託者の名義にしておけば委託者の財産と区別できます。更に受託者の固有財産から区別するには名義に「信託口」の表示を入れておけばいいのですが、すべての金融機関がそれを認めるとは限りません。金融機関に問い合わせ、その取扱いができないならこれを認める他の金融機関に口座を移し替えることも検討されたらいかがでしょうか。株券不発行会社の株式が信託財産の場合は、株主名簿に信託財産であることを記載することになり、これは会社や第三者に対する対抗要件ともなります(会社法154条の2)。

信託が終了したときの財産は誰のものになるのですか?

信託の機能の一つに財産承継機能があります。委託者は信託が終了した時の残余財産の帰属者を信託で決めて置けます。委託者は、残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者となるべき者(残余財産受益者)を指定できるほか、残余財産の帰属者(残余財産帰属権利者)を指定できます。もし、信託行為でこのような残余財産受益者や残余財産帰属権利者を定めていなかったときについて、信託法は、信託行為に委託者又はその相続人その他の一般承継人を帰属権利者と指定する旨の定めがあったとみなし、それでも残余財産の帰属者が決まらないときは、残余財産は清算受託者に帰属させると規定しています(信託法182条2項、3項)。

自己信託とはどういうものですか?

平成19年施行の新信託法では委託者が受託者を兼ねる信託を設定できるようになりました。これを自己信託とか、信託宣言と言います。この自己信託の設定方法は、委託者が公正証書その他の書面、又は電磁的記録に、信託の目的、信託財産の特定に必要な事項、受益者の定め等必要な事項を記載又は記録して行う方法によります(信託法3条3号)。  委託者自身が、受益者となる場合を自益信託と言いますが、委託者が、受託者と受益者をも兼ねる三者一体型の信託も可能です。ただし、注意しなければならないことは、信託法では、受託者が受益権の全部を固有財産として有する状態が1年間継続したときは、信託は終了するとしていることです(信託法163条2号)。信託を設定するときにこの点を注意してそのような事態に対処する措置を講じておくことが望まれます。

目的信託とはどういうものですか?

受益者の定めのない信託のことで、信託財産を特定の受益者の利益のためでなく、信託の目的のために管理、処分されるものです(信託法258条1項)。たとえば、ペットや町内会等の団体など権利能力のないもののために設定される信託や非公益目的のために設定される受益者を確定できない信託(公益目的のための信託は、別に公益信託として認められています。)が考えられ、この信託は、遺言でも契約でもなし得ますが、自己信託では設定できません。ところで目的信託は、現在のところ、法規制により、受託者は国、地方公共団体又は純資産額が5000万円を超えるなどの要件を充足した法人に限定されており(信託法施行令3条)、個人が受託者になれないこともあって非常に使い勝手の悪いものとなっています。

福祉型信託を設定するポイント
 福祉型信託は、個人の個別的なニーズに対応したオーダーメード的なサービスです。それは財産管理だけでなく将来の財産承継も視野に入れるなど委託者の様々な思いや多様な受益者像、更に複雑な家族関係や背景事情等を抜きしては語ることができません。したがって一口に福祉型信託を設定したいといっても、信託銀行等の利潤を目的とする信託と違って単純にある書式に当てはめればいいというものでなく、これらの個々的な様々な事情を総合的に考慮して適切な信託の形を作り上げていく必要があります。場合によっては、受益者の保護をより厚くするため任意後見契約を併用したり、信託監督人や受益者代理人を設けた方がいいケースもあります。そのことからも福祉型信託は、まさにオーダーメード的なサービスと言えるのです。公証人としっかり打ち合わせてしっくり納得のいく信託を作り上げましょう。